洗面ボウルの材質で、人工大理石と並んでよく拝見するのが陶器です。
陶製ボウルの良さは、やっぱり清潔感かと思います。ぬるりと滑らかなガラス質の光沢の中を、蛇口から出てきた水がトロトローっと滑って排水口に吸い込まれていく様子は、見ていて気持ちいいです。
しかし、ウォッシュテックのテリトリーでは、陶器の表面に焼き付けられたガラス質のコーティングである釉薬(うわぐすり)の質感が失われた洗面ボウルが大半かと思います。
商業施設の手洗いボウルは数か月で、使用頻度の少ない住宅でも数年経過すれば、カサカサして照明の光をボンヤリ映す程度になってしまうのです。
古くなったから、釉薬が剥げてしまったのかしら...と、思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、違います。
ガラス質の釉薬の表面に、水道水の中に溶け込んだカルシウムやマグネシウム、シリカなどのミネラルが積み重なってくっついているのです。
くっつく、という表現だと、すぐに取れそうに聞こえるでしょうか。
すぐに取れるんだったら、ちょちょっと手を入れるだけでキレイになってコンディションをキープできるはずですが、現実、滑らかさをキープできないのはなぜでしょう。
ガラスの主成分はシリカです。つまり、水に溶け込んだシリカが表面にくっつくと、同じ性質であるガラスとホントにピッタンコ。
分子構造レベルで「水垢」と「表面の釉薬(ガラス)」が超密着というかもはや一体化に近い状態になる...そのようにイメージしてみてください。
釉薬は剥がれているわけではなく、水垢がめっちゃがっつり密着です。
いったん水に溶けたミネラルですから、水垢って、なんていうか粉?粒?のように密着です。水溶き片栗粉を置いておいたら粉だけ残して干上がりますね、あんなふうに。ツルっと平滑ではないため、肉眼ではすりガラスのようにマットな質感に見えてきます。
ガラスの容器はジャムやピクルスなど酸性の食品でも変化しなくて良いですよ!と、言いますよね。ガラスと原料同じのシリカの水垢(スケール)というやつは、変化しにくいヤツなのです。ということは、きわめて除去しにくいのです。
スポンジやクロスで磨いてみる、クエン酸スプレーしてみる...そのような掃除ではビクとも良くならない理由は、そういうわけです。
「ミネラル分が多めに含まれているエリアの洗面ボウルは、たいていくすんでいる。WHY?」の理由、以上でございます。
トゥルッ。
1枚、汚れの皮を剥いだように、ぬらっとした陶器らしい質感が回復。
ビフォア画像中央下あたり、お掃除を頑張られた痕跡が見られ、本来の平滑な質感からは程遠く、ここでギブアップされたとのことでした。しかしレストレーション後は均一な光沢に!
一応ながら、洗面ボウルの全体像のビフォアアフターも載せておきます。
陶器の洗面ボウル全体を俯瞰で見た方が分かりやすいか迷ったので、どちらもご覧ください。
明るいボウルの中をツルンと流れてゆく水。これぞ洗面台の清潔です。
水垢は、いったん固着すると加速度的に厳しくなります。したがって固着のメカニズムを事前に知って予防、付いてしまったら早々に手を打つのが得策です。
なお、ホーロー製のボウルは、釉薬の下は塗装、その下は金属です。陶器よりも焼成温度が低いため釉薬は弱め、その下の層はウエハースのように異なった材質が薄く重なっています。既にお掃除で深追いしたためダメージがある場合や、水垢の固着が長期に亘っている場合は、陶器と比べて水垢除去の回復率は低くなります。ホーローの洗面台の場合は、より先回りの対策が必要といえます。