おかみの断面で図解シリーズ、その2。(その1・大理石研磨には2種類の光沢があるの図解)
今回は、マニキュアのように膜を作るタイプのコーティング剤や石材ワックス、あるいは蝋(パラフィン)を大理石に塗布したら、その時しばらくはいいかもしれないけど、後々までシコリが残ります。という内容を解説してみます。
1)
工場出荷段階の大理石タイルの断面を、顕微鏡で見たところ。
もちろん目視ではツヤツヤのツルッツルです。でも実は、ナノレベルの微細な孔がたくさん。スカスカのスポンジ状になってます。この穴ぼこを私どもは「ポーラス」と呼びます。
2)
数年経過すると、歩行による衝撃によって、表面がギザギザに削れてきます。
表面のギザギザに照明の光がグチャグチャッとからまって、ビシッとまっすぐな光沢がなくなります。モヤモヤっとして見えたら、こうなってます。
3)
ギザギザの一番深いところ(図2の点線の下の線あたり)までダイヤモンドディスクで研磨。平らにならします。
官製はがき1/3枚くらい石が減りますが、図1とほぼ変わらない平らな状態に回復できます。つまり、光沢も元通りにきわめて近い状態に。
一方。
大理石の表面に化学的に光沢をだすための薬剤(造膜性のコーティング剤、ワックス)を塗布した場合の大理石。
A)
大理石はスポンジ状なので、表面に膜が作られると同時に、場所によってムラがある感じでコーティング剤を吸い取ってしまいます。
石の表面は完全に隠蔽されています。つまり、今、目で見て触っているものは、大理石ではなくてコーティング剤であるということ。
B)
数年後の状態。
図2と同じく、歩行の衝撃による擦れ傷が出てきます。それと同時に、表面に塗布されたコーティング剤にも傷ができ、樹脂の経年劣化が出てきます。
こちらの例は、マンションの玄関タイル。セルベジャンテという種類の大理石。ガサガサというよも、どことなくボワンボワンとはっきりしない光沢が特徴かと思います。
ここで図Bの真ん中あたりの〇にご注目。ちょっと歪んでます。穴ぼこだらけの大理石、実は、空気や湿気を吸ったり吐いたりしています。表面を固い樹脂膜でピッタリ塞いでポーラスを埋めてしまうと、呼吸ができません。息が出来ない状況が続くと、大理石、ちょっとヘンになってしまうんです。具体的には、深いところまでいっぺんにカルシウムっぽいパサパサな感じになってしまうのです。
C)
図3同様、ギザギザの下辺までダイヤモンドディスクで研磨します。
同じ材料、同じ手順で磨いても、光沢が元通りのレベルまで到達しません。なぜなら、コーティング剤が残っている部分と残っていない部分にムラが出てしまうからです。加えて、いっぺん「ちょっとヘンになっちゃった」大理石は、パサパサと変質しているので磨いてもバチーっと光ることは一生ないのです。
コーティング剤があった大理石、研磨後。状況が軽かったので、このくらいには戻せました。でも、スッピンそのまま無加工の大理石だったら、もっとビチーっとまっすぐな跳ね返り感で光るはずなんですよ。
もし、コーティング剤が官製はがき1/3よりも厚く塗られていたら。それはもはや「大理石ではない」別のものなので、大理石の研磨では対応不可ということになります。
結論!
大理石はコートとかワックスとか、上塗りしないで管理してください。
でも、需要の高まりによる過剰な掘削で大理石は枯渇しつつあり。年々大理石の品質は落ちてます。
大理石の品質はふつうは見ても分からないかもですが、研磨してみたら物凄く分かります。どのような品質の石に、どのような化学的な加工がなされているのか。
大理石の「高級感」はマスト...マンション全世帯に入れたい...でも、光沢感が低い大理石しか入手できない......そういうことから、工場出荷段階から上塗り加工がされている大理石が増えてます。
あと10年も経てば、20世紀に産出された大理石とは比べ物にならないものしか入手できないかもしれません。正しいメンテナンスをなされていない大理石は、見るに耐えない美観になり、改修して別の床材に変更される可能性が高い。
だとすれば、今ある大理石タイルをニュートラルな状態で美しく清潔に使い続ける人は、きっとハイステイタス。いい大理石がいい状態で入っていることで、プレミアム物件になるんだと思います。
番外)
ウォッシュテックの大理石コーティング剤は、ポーラスのサイズにピタッと埋まるナノレベルサイズに調整された製品です。
こんな感じで、石の表面は石のまま、孔の凹みだけ埋まります。石の呼吸を妨げず、かつ、ポーラスから水分や汚れが深く侵入するのを防ぎます。ナノレベルなので、歩行や拭き掃除で徐々に自然に脱落します。
次回の石材メンテナンスまで、深刻なダメージに至ることなく、日常管理を楽に、なるべく長く美しく清潔に保つことが目的です。
何か上塗りすることで石材以上の強度を謳う他のコーティング剤とは一線を画す。バキバキに強くはない、擦れたらすぐ取れちゃう。それが、石を長く保つためのハイテクノロジーだと考えてます。