4月。ご入居ラッシュだからでしょうか。本日は、3件、同内容のお問い合わせがありました。
浴槽の、ちょうどお湯の水面くらいの高さに、幅10センチくらいの黒い汚れ付いている。ハウスクリーニングをすれば、きれいになりますか?
とのご質問です。検索したらすぐに出てくるように、記事にしておきます。
浴槽の素材には、人工大理石やステンレスなどさまざまな種類があります。そのなかでもポピュラーな素材は、FRPです。比較的安価で軽量であるため、マンション・戸建て問わず多くの住宅で採用されています。「ポリバス」と呼ぶ方もいらっしゃるかと思います。
FRPとは、「Fiber Reinforced Plastics」の略称。グラスファイバーなどの繊維を、塗料で塗り固めて、更に塗装して、なめらかに形成したものを指します。
小学校の工作で、張子のお面を作りますね。プラスティックや竹ひごで作った骨組みのような土台に、濡れた新聞紙を貼って、糊を塗って、絵の具で上塗りして、顔を描く。その後、水性ニスを塗って、できあがり。すごく大雑把ですが、そんなふうにイメージされると分かりやすいかもしれません。
FRP製の浴槽も、繊維の上に、色のある「着色層」があって、表面は透明の光沢感がある「クリア層」でコーティングされています。
さて、ここからご質問に戻ります。
浴槽に浮かんでいる帯状の黒ずみは、FRPの劣化によるものです。ハウスクリーニングをすることで現状よりは改善できますが、完全に解決することはできません。
お風呂掃除の際、浴槽をブラシやスポンジで擦られ続けたことで、表面の塗装がえぐり取られ、肉眼では確認できない細かな傷や凹凸の穴ぼこになってしまっているのです。
お風呂の残り湯が長時間湯船に貯められている状況は、思いのほか急速に樹脂を劣化させます。表面のクリア層を突き抜けて、腐食が着色層に到達している状況も、同じです。
そして、下層が透けて見えている、あるいは、その穴ぼこにカビやヌルヌルした雑菌や水垢が入り込み下層まで達して、黒ずみに見えてきます。
ハウスクリーニングをすれば、表面に付着した汚れを取り除くことは可能です。しかし、表面の樹脂が劣化してグズグズして汚れが染み込んでいる場合、FRPの深い層まで完全に取り去ることはできません。もちろん、ハウスクリーニング後は、現状よりも薄く目立たなく、清潔な状況にはなりますが、既にある無数の穴ぼこはハウスクリーニングでは改善できませんから、またすぐに汚れで埋まってしまいます。
汚れ「だけ」をロックオンして、それを取ることは、むしろ簡単です。FRPを深くまで削り出してしまえば良いのです。事実、説明なしにそのような清掃を行う業者も少なくありません。しかし、FRPの構造上、それはダメージを深刻化させるだけのこと。
削り落とせば「キレイになりましたね!」と、お客様を一瞬よろこばせることはできます。でも、その日からお客様は、更に強烈な汚れと戦うことになるのです。毎日毎晩、「汚れているなぁ...」と、しょんぼりさせてしまうことになる。「なぜなんだ...」と、悩み迷わせ、「また掃除を頼まなくっちゃ...」と浪費させることになる。
FRPの一番上の層は、つるりと滑らかな透明の被膜です。しかし、樹脂の塗料が薄く乗っかっているだけなので、けっこう弱いのです。お風呂掃除が新築から1〜2年ほどラクに感じるのは、この一番上の被膜が生きているからです。
FRPの構造を知らなければ、そんなに弱いとは気付きません。だから、どうぞこの際、知ってください。
特に、お父さんがお風呂掃除をされている場合、この状況は多いようです。男の人は、腕力があるので、やさしくやさしくと心がけて洗っても、けっこう力が入っちゃっているのです。まして、気になる汚れがあるんだよな〜、と思いながら洗うなら、もっとゴシゴシと力むものです。
また、賃貸物件の原状回復ハウスクリーニングが何度も入った浴室も、同様の状態が多く見られます。人件費と材料費も極限まで安価に抑えなければならない賃貸のハウスクリーニングにおいては、粗いスポンジパッドに強い洗剤を染み込ませて力強く擦り上げる方法が主流であるためです。
その結果、いかなハウスクリーニングを入れたとしても、解決できない事態に。浴槽の交換をするほか対策はなく、ハウスクリーニングはその場しのぎ、ちょっとの間の延命にしかなりません。
もっと早くにご依頼頂けていたら、打つ手はあったかと思います。でも、一足遅くて。残念なことです。